「確定拠出」と「確定給付」
何故、「確定拠出」ではいけないのですか。
企業年金には2種類あります。
「確定給付型」と「確定拠出型」です。
「確定拠出」と「確定給付」の違いは、
「確定給付」は受取額が決まっている。
「確定拠出」は出すお金(毎月の掛金)が決まっている。
似かよった字面ですが、受取る時と掛金を支払う時では、視点の置き所が違います。
どちらかを選ぶとなると、貰うときのお金が決まっている方が分かり易いし、安心と、
即座に「確定給付」に軍配が上がりそうです。
このブログでも「企業型DC」「個人型iDeCo」の「確定拠出」を推奨してきました。
理由の一つは、「確定拠出」は「確定給付」も内包しているからです。
「確定拠出」なら「確定給付」の使い方も出来ます。
もうひとつ「確定拠出」を推奨する、何よりの理由は投資信託による運用ができるからです。
投資信託による運用は「確定給付」のように受取額が決まっていません。
ところが、受取額が決まっている「確定給付型年金」は、受取が開始される前に、
なくなっていたり、確定利回りが変更になってしまいました。
「確定給付型年金」の代表格は、厚生年金基金です。
「適格企業年金」も確定給付型です。
両年金とも、受給が開始される前に廃止や解散に追い込まれ、
あるいは「確定拠出年金」へと移行しました。
「確定給付」が消えた理由
何故でしょう。
「確定給付」は将来の受取額が約束されているだけに、企業は必ず義務を果たさなければなりません。
例えば、
勤続30年の社員に退職金として「適格企業年金」から1,000万円支払う規程になっていれば、
企業は1,000万円の支払いのために30年かけてお金を積立て拠出します。
そのときに用いるのが割引率です。
30年後1000万円の退職金支払いのために給与とは別に毎月約2万円を拠出します。
そうすると30年後、めでたく1000万円を退職金として支払えます。
この時の割引率は3%です。
(30年の期間中3%で運用することを前提に毎月の積立額を計算する)
単純に1000万円を30年かけて貯めるとすると、
1000万円÷360ヵ月で毎月の積立金は約28,000円になります。
年利3%で運用できれば、毎月の積立額は約20,000円で済みます。
多くの企業年金は3%~5%の割引率で、
将来の退職金原資を「厚生年金基金」や「適格企業年金」に託しました。
ところが、ご承知の通りここ20年以上、国内債券で確定利回り3%で運用できるものは何処にも見つかりません。
そうすると、企業は義務を果たすために3%運用では足りない分を
(28,000円ー20,000円)何処からか持ってこなくてはなりません。
何処かから、結局は企業の営業利益からの持ち出しです。
本来なら、設備投資や、昇給、株主に還元されるべき資金が
「退職給付債務」の処理に回させれてしまいました。
多くの企業が「退職給付債務」処理に苦しんできました。
しかしそれも限界です。
そうして、「厚生年金基金」脱退や「適格企業年金」解散となりました。
勿論、脱退や解散にも厳しい条件が付けられ、企業にとっては、進むも留まるも苦しい選択でした。
従業員にとっても、退職金はこの位もらえるなと見込んでいたのに、
制度が変わり、退職金額そのものが減額になり、入社当時との見込みとは違ってしまいました。
「確定拠出年金」は2001年に米国の401Kに倣って日本で誕生しました。
初期の「企業型DC」は、
正に「退職給付債務」対策の「厚生年金基金」「適格企業年金」からの移行組のものでした。
運用経験の場の提供こそが最大の福利厚生
「会社に2つ企業年金があるのですが」見て下さい。
先週お会いしましたお客様が持っていらしたのは、
ひとつは、確定利回り2%で、企業が全額掛け金を負担します。
もうひとつは、確定利回り1.2%で、希望者だけが加入するものです。
2つとも「確定給付型」で、それぞれ別の金融機関のものでした。
確定利回り2%も、1.2%も決して悪くはありません。
でも、2つとも「確定給付」でなくても、
どちらか一方は「確定拠出」でも良いのではと思われてなりません。
お客様も「1.2%の利回りは低くないですか。」
運用経験がある方なら誰でもそう思われますよね。
「企業型DC」の導入をご案内すると、事業所様が最初に心配されるのは、
「運用なんて、うちの社員には無理。」
「絶対にマイナスにならないとは言えない。」です。
そんな時、国の年金も運用しています。年率3%以上の運用成績ですよ。
大切な年金を決して危ない運用をしている分けではありません。
お手本になりますよね。
大切な年金掛金を減らさないためにこそ、株式や債券に預け分けをしているんです。
株式の運用がギャンブルでないことは、大切な年金掛金を預かるGPIFが証明しています。
マイナスにならないようにすることはできます。と、ご説明します。
国債の利回りも0.05%の世界です。
日本は物価の上がらないデフレの状況が続いていますが、
それでも国債利回りや定期預金の利息より物価上昇率の方が高いのです。
貰える金額が決まっている「確定給付」が、確定ではなくなり、
運用次第の「確定拠出」の受取は確約され、インフレにも対応できる。
将来のことが不確実なら、柔軟性をもった方がまだ安心です。
企業は、運用の場と、資産形成のための時間を用意するだけで十分です。
勤め先に「確定拠出年金制度」があれば、
従業員は、投資信託に接し、値動きのある運用を体験することができます。
「企業型DC」のある会社に働く人は、主体的に自身の老後資金を管理できるようになり、やがて
運用経験を積むことのできる「企業型DC」が最大の福利厚生であったことに感謝する日が来ます。